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「深山木に会いたい」
彼女の顔を見なければ、彼女がどこか俺の見えないところでも息をしていると、鼓動を鳴らし続けていると思えなかった。
今すぐにでも彼女を見ないと、いつか、すごく近いうちに彼女のことを忘れて、楽しかった記憶も話したことも姿形失われた目の輝きでさえ忘れてしまいそうで、堪らなかった。彼女が二度と俺と会いたくない、話したくないと願っていても、それはいい、せめて記憶の中に俺を愛してくれた人の姿を残させてほしかった。
それが許されないから、俺の中から消えていこうとしているのなら、俺はそれを止めなくてはならない。
「あいつ、どこにいるんだよ、教えてください」
「会ってどうするのよ。あの子が折角お前に罪悪感背負わせないために口止めまでしといたのに、折角の厚意を無駄にする気?」
言われてみればきっとそうに違いなかった。俺は彼女のコウイを無駄にする。
「でも、俺が責任を負わなきゃいけないはずだろ、だって俺はあいつに・・・あいつ、み・・・み・・・夕夏に!助けてもらったんだ。だから、俺のことより、俺はあいつの為になにか、してやりたいんだ」
また名前が思い出せなくなって、仕方なく下の名前で呼んだが、やはりばつが悪くて下を向く。いったいどういう現象なのかは知らないが徐々に彼女の存在が俺の中から消えていってるのは確かだ。
首をもたげて、苦しそうに眉をひそめた渋谷の目を見つめる。
「頼む」
きっと彼女は俺と会いたくない。話だってしたくない。それならもういい、無理にしてくれなくていい。これ以上彼女を痛めつけたくない。だからせめて彼女が負った傷や痛みを俺にも教えてほしい。俺は彼女を理解したかった、恋人でなくとも彼女を近くで支えてあげなければ、いや、寧ろ恩を返すように。
永遠とも感じられる時間の果て、渋谷は徐に口を開いた。
そして彼女のいる病院を伝えてくれた。彼女に許可を取ればどうせ断られるんだからと勝手に行けと投げやりな口調で言った。しかし、彼女の傷に触れる様な事を言ったら許さないともきつく言われた。
いい友達を持っているんだなと心の端で感じながら「ありがとう」と礼だけ言って、その日はまだ二時間ぶん授業があるというのに無断で学校を抜け出し、彼女がいる他県の病院に向かった。
その道中の電車内で、彼女に会ったら初めに何を言おうかずっと逡巡していた。
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