3.神の名を呼ぶ様に

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「…忘れてほしかった。あなたは優しいから、きっと罪悪感やらなんやらに縛られて私に囚われてしまう。でも私は今を生きるあなた、明日を生きるあなたが好きなの。 あなたとの、あなたの未来を愛したの。 恋人になったら壊れてしまう関係何て無いと思った、でもあなたにはあった、あなたの未来を私のせいで不幸にしたくない。だからこうしたの。 怖かったよね、急に思い出したり思い出せなくなったりして。 でも、これで終わり。あなたは次第に私を忘れていくし、私も願い通りあなたの目には映らない遠い場所に行くことが決まったの。だからもう二度と会えないの・・・、ね?」  彼女が首を傾げた。  俺は泣いていた。 「思い出したよ。」 膝に両肘をついて、前傾姿勢になり、掌で顔を覆う。 「思い出した。もう忘れない。みやまぎ、深山木夕夏。どうして俺のことをそんなに、好きだってだけでこんなこと、しなくてもよかったろ?」 懇願するように、もうやめてくれとせがむ様に彼女の両手を強く握った。  しかし彼女は鼻で笑った。  ふんと言って暫く黙った。繋がれた手から、彼女の体が小さく震えているとわかった。 「馬鹿なのね。」 ああ、何度も言われた言葉だと目じりから大粒の涙が零れ落ちた。 「別にあなたじゃなくても助けたわ。ただ今回はたまたま両目を潰しただけ。勘違いしないで。好きだからじゃない。」 嗚咽を漏らしながら言葉の列を紡いでいく。俺はそれを余さぬように辿っていく。 「ただ私があなたを愛したことによってしたことは、生きる事よ。こんな状態になっても生きていたいと思えたのは、あなたがここにいるからよ。目が無くても見えなくてもあなたの存在は感じられるの。」 手を解き、腕を伸ばして細い指の先で俺の顔に触れる。 「この温度、声、記憶、私の体に残るあなた全てで、あなたは存在しているの。」 だから逆にと、彼女は声音を低くした。 「それら全てが無くなれば私は完全に忘れられる。あなたは私を、もう私だと認識できなくなる。残念ね。あなたもちょっとは悲しいかな?」 ふざけた問いに声を荒げた。 「当たり前だろ!嫌だよ!忘れるなんて!」 「じゃああなたにそう思わせたことが私の罪ね。でも大丈夫、その気持ちを忘れてほしくて、私はあなたを呪ったの。」 さあ立って、と俺の帰りを促した。 「帰る頃には私のことなんてきれいさっぱり忘れてるわ。」
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