1.刃の様な幸せだった

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 久しぶりにトーク画面を開くと、一週間前の、心を抉る、冷たくて、不定形で、内臓を直接撫ぜる様な拙い会話が残されていた。 『返事なんだけど、俺は、深山木とは付き合えない。だけどそれは深山木が嫌いって意味じゃなくて、深山木と話すのは本当に楽しいんだ、異性の中では一番の友達、親友だと思ってる。だからこそ恋人になって、その楽しい関係を壊したくない。それ故に付き合えない。』 彼女からは電話を通じて告白されたにも関わらず、『考えるから』と言って、面と向き合わずにSNS上で返事をした。すると一分もしないうちに、 『成る程、そうなの、わかった。』 と一文で返された。 『けど俺は深山木とこれまで通り話したり、冗談言ったり、そういう関係のままでいたいから、これからも前と同じように仲良くしてほしい。 『ずっと友達でいたいんだ。』 言葉を選んで慎重に、思いのままを伝えた。すると彼女からは、 『あなたがそう望むなら、そうします。 『けど、流石に数日間は普通に、今まで通り笑って、話して、なんでも言える風にはならないと思うの。頼むからそこだけは承知してほしいの。 『ごめん、ごめんね。』 悲痛な、本音が話された。  そうだ、俺にもわかった。こんな見た目だから告白しても了承されることがなくて、ずっと惨めな思いをしてきた。そして告白をした女子に『友達としてこれからもよろしく』と言われても、自分はその子と恋人になりたかったわけだから、結果的に恋人になれないのであれば別に友達で、と妥協できるわけでもなく、疎遠になった。  俺は唇を真一文字に結んで文字を辿る。 『謝らなくていいよ。大丈夫だよ。俺も仲いい関係に戻れるように頑張るから、これからもよろしくね。』 当たり障りのないことを言おうと、国語のできない頭で考え抜いた。  それに対する返答がこれだった。 『そうしてください。』 彼女に『これからもよろしく』する気などさらさらないと見える。  それもそうかと俺は深く項垂れた。  だから彼女は先に『ごめん、ごめんね』と柄でもなく謝ったのだ。いつもなら尊大にも程があるといった感じで、「ごめんなさい、とでも言うと思った?寧ろお前がいいなさい」とかわしてくるのに。  俺は一旦、彼女に話しかけるのをやめようかと躊躇った。  けれどもすぐに想い直して文字を打つ。 「大丈夫? 「どうしたの?」
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