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目の前が真っ暗になる。
失明?
俺のせいで?深山木が失明?目が見えなくなるっていうことか?
「どうしてこんなやつ庇って夕夏が傷つかなくちゃいけなかったの!お前が見え無くなればよかったのに!このクズ!」
罵声を浴びせられても、何も考えることができなかった。
どうして、いつ、何故、あいつは俺を庇って失明した?
わからない。
思い出せない。
がちがちと歯を鳴らして頭を抱える。最早自分が怖かった。何も覚えていない自分が薄情どころか、何か病気かなにかなんじゃないかと、なぜ自分だけが何も覚えていないのかと、困惑し、混乱し、卒倒しかけた。
脳が熱を持ってぐらぐらする。
目の前の床が膨張して歪んで見えた。
埃だらけの地面に跪き、顔を真っ青にする俺の肩に誰かが手を置き、
「あいつに言われて黙ってたんだ。お前に心配させたくないから学校来なくても風邪ってことにしろって。」
だから俺は彼女のことを忘れていたのか?
彼女に『庇って』もらって、『失明』せずに済んだことさえ?
「仕方なかったよ、あれは。お前が悪く思う必要はないって。深山木も運が悪かっただけだよ。」
違う、彼女は進んで不幸を選んだのだ。
俺は一人で「違う、違うんだ、違う、違う・・・」と呟きながらひれ伏した。
違う。
違うんだ。何より恐ろしく怖く、耐えがたい恐怖に俺を駆り立てるのは、俺自身に課せられた罪の意識やそれに対する責任ではない。
彼女のことが思い出せないのだ。
彼女の顔がわからないのだ。
渋谷の言う通り目の前で事故の現場を見ていたのなら、傷を負った直後の彼女も血も痛ましい姿も覚えているはずなのだ。それなのに自分は何も、なにひとつ覚えていない。というか、本当になにも、それに関する一切の感覚が俺の中からこそげ落ちている。
どうして思い出せないんだ。
なんで忘れているんだ。
俺は俺自身の頭をしきりに殴った。
「壊れたのか?俺は狂ったのか?思い出せ、思い出せよ、そのとき俺は何してたんだ」
彼女が怪我したことも忘れて、画面上でメッセージを送りつけ、返事が来ないなどとほざいていた自分を殺したかった。
返事が来ないんじゃない。
彼女はもう、既に、言葉が見えないのだ。
そう考えるといてもたってもいられなくなって嗚咽が漏れた。
「どうして」
何も思い出せない。
彼女の顔が、俺には見えない。
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