雨音に隠れ僕たちはキスをした

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 で、なんでマスク外したんだろ? 今から作業するのに。不思議なやつ。  大倉はたたまれたままのダンボールへ腰をおろし、顔の横で手をヒラヒラ振った。 「初めましてじゃない?」  口調の軽さにちょっとビックリした。さっきまで真面目そうだったのに、一変したって感じ。しかし、歯並びまで完璧なのか。歯磨き粉のCMもらえそうだな。 「うん。そうかも」  さっきまで大倉をがん見してたのを誤魔化そうと本棚に目を向け、本の取り出し作業をしながら答えた。 「俺、D組の大倉海里(おおくらかいり)。おたくは?」  大倉が激モテなのは学校でも有名な話。なんせ僕ですら名前を知ってるくらいだから。  いつも下校時間には女子が一緒に歩いているし、昼休みに数人の女子に囲まれてる光景もしょっちゅう見る。そういえば、そういう時の大倉は決まってマスクしてたっけ。 「君島英志(きみしまえいじ)A組」 「きみちゃんね」  大倉の呼び方にビックリしてバッと顔を向けた。きみちゃんて誰よ。それに、やっぱり超軽くない? 容姿だけじゃなく、性格もアメリカン? 「そんな呼ばれ方したの初めてなんだけど」 「なんて呼ばれてるの?」  大倉は立ち上がりテーブルにダンボールを乗せると、本棚の一番上の辞書みたいに分厚い本をダンボールへ入れていく。 「だいたい苗字。呼び捨てとか、君とか」 「きみちゃんも苗字でしょ」 「島がないじゃん。女子でもないし」 「似合ってるよ。きみちゃん」  ヒョイヒョイと分厚い本を片手で入れながらニコッと笑う大倉。
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