『Φ』

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『Φ』

同じ組織に属していても、全員が同じことに詳しいわけではない。 今回のわが社の目玉プロジェクトー『デウス』に関しても、そのことは言えた。 かの大規模な科学革命は人々の生活を、文字通り変えた。 『力』を手に入れた人間達は秩序に従わなくなる。 その秩序をゆがませないために政府は『力』をさらに盛り立てる。 だがその『力』をさらに人々は破る。 その繰り返しだ。 政府に与している『Φ』としても、そのあたりの事情はほうっておける問題ではなかった。 だから造ろうとしたのだ、神を―ーすべての『力』を平定する、『デウス』を。 少なくとも自分はそう理解している、とカイトは考えた。 「Φ」に所属して五年。秩序維持のため、自分なりに仕事をやってきたと思っている。 だが、『デウス』に関しては、今までまったくノータッチだった。 神を造ろうという、ある意味では不遜なその試み―ーそんな大それたものに、カイトごとき新人が噛めるわけがない。 ただ、まさかその姿をおがむこともなく消えてしまうとは!! 開発途中だと聞いていた『デウス』―--それが失踪した。 形としては少年そっくりの、どこにでもいるありふれた姿。 そのありふれさを目撃する前に、自ら姿を消した『デウス』。 当然、『Φ』としても対処に追われる。 しかし開発に携わってもいない自分がその後処理に駆り出されるとは…… 世の中不公平だ、とカイトは感じた。 上司にあたるメーガン・ケイサンはしかしそう考えていないらしい。 「キミには、ここを捜索してもらう」 そういって、今時紙の地図を取り出しては、机上に広げて指差す。 「この田舎に?」 思わず本音をもらしてしまうほどの田舎都市。 当然『秩序力』など働きようがない。 「警察はどうしてるんです?」 「警察も、もちろん『神』探しには奔走している。だが、『デウス』に詳しい我々が独自に、適切に回収出来た方が速い」 そう言ってコーヒを口に含んだケイサンは、しっかり納得しているようだった。 いや、自分は『デウス』のことなど、少年の姿をしていることしか知らないのだが…… 「行ってくれるね?」 まあ、もとよりカイトに選択肢などない。 「……はい」 こくりと頷いている自分がいた。
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