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まさか、当人はそれを聞いている人がいるだろうなどとは考えもしていないだろうが、リラックスして吹いているであろうそれは私にも耳障りが良い。知っている曲ではないのだが、こうやって空き地に訪れて密かに練習している様に和んでしまう。流石に窓から顔を出すとばれてしまう可能性があるため、休憩の直前にこっそり窓を少し開けるのだ。
この時間帯は会社には私一人しか居ないため、それ自体は容易に出来る。
さて、今日も口笛が聞こえてきた。今日のはポップスみたいだな。
なんとなく町で耳にしたことのあるような曲が聞こえてくる。
それをBGMに私は弁当を包んでいた古新聞を広げた。
...気が付くと夕方になってしまっていた。うっかり居眠りしてしまったようだ。
窓の隙間から流れ込んでくる冷気で目が覚めたらしい。
今日の分の仕事を急いで片付けにかかる。いくら小さな会社だろうと、仕事をしないのは不味い。そしてどうにか勤務時間中には終えることが出来た。ギリギリセーフだ。ふぅ。
窓を閉めて鍵を掛け、戸締りをチェックして私は帰路についた。
そんなことが数年続いただろうか。
私は空き地に訪れる人に密かに口笛さんというあだ名を付けて、相変わらず休憩時間中に聞き入っていた。口笛さんの口笛はいつしか上手くなり、知っている曲ならすぐに分かるほどにまで達していた。知らない曲でも気に入ったものは途中で録音するほどだ。
といっても、携帯電話のボイスメッセージを録音する機能を使っているので、すぐに途切れてしまうのだが。
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