口笛

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唇を湿らせた方が音が出やすいことが分かってからはリップクリームを頻繁に使うようになった。特別金を使う趣味も無いので、色々選んでみたりもした。結局よく分からなかったが。  社長に気になる人が出来たかと疑られて「いません」、と答えたものの、にやにや笑いを浮かべられた。これは誤魔化したと思われているようだが、実害が無いので放置することにした。いずれ忘れてくださるだろう。  それから更に2週間掛けてようやく童謡のチューリップが吹けるようになった。 かなりまだぎこちないが大きな進歩だ。最近の曲はよく分からないから次は穏やかめのクラシックに挑戦してみようと思う。  こっそり勤務時間後の会社で鍵を閉める前に口笛の練習をしていたら、忘れ物を取りに来た同僚にバレてしまった。同僚は納得したかのように頷くと苦笑して、上手いですね、と一言言ってそそくさと帰っていった。下手なら下手だって言ってくれた方がいいのだが...私の方が年上だからかなぁ。  それからひと月もたった頃だろうか。私の口笛もそこそこ上達してきた。もう、たぶん人に聞かせられるレベルにはなったと思う。  ただ、問題があるとすれば聞かせられる相手が居ないということだろうか。いい年した中年の口笛を聞きたいなどという珍妙な方は居ないだろう。それもプロならいいが...いや、口笛のプロとか居るのか?どうだろう。     
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