口笛

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 私はただの会社員で、不動産をやりくりするノウハウは持ち合わせていなかったからだ。それにこんなところの建物を貰っても有効利用できる気がしない。口笛さんのことは惜しいが、私はそれに伴って一つ決意をしていた。  それから数日後に、口笛さんと会った。空き地で待ち伏せしていたのだ。  小さな路地から入って来た彼はびくっと立ちすくんだものの、私が取り出した紙切れを見て、表情を和らげた。口笛さんはスーツに身を包んだ20代前半ほどの若い男の人だった。 「あなたが聴いてくれてた人ですか?」 「ええ、ごめんなさいね。勝手に聴いて」  私がそういうと、彼ははにかんで頬を掻いて笑った。可愛らしい笑顔だ。私がもう数年若ければなぁ。 「いえ、実は、ちょっと嬉しかったんです。練習に来てたんですけど、  吹けるようになってきたら飽きてしまって...でも、しばらくぶりに来たら...」 「本当はね、ずっと聴いてたの」 「えっ 参ったなぁ...最初からですか?」 「ええ、最初から」  なんだか私も恥ずかしくなって誤魔化すように微笑むと、彼もどぎまぎしてまって目を逸らしてしまった。 「でも...どうしたんですか?急に...待ち伏せなんて」 「それなんだけど、お別れに来たの」 「...何かあったんですか?」  目を逸らせていた彼が私の方に視線を戻した。その心配そうな顔に胸が熱くなる。     
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