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彼女の言った、りこりんとは、私のことだ。私の職業はアイドル。そして芸名が厘條りこ。そこからとった愛称でりこりん。ファンの間で、私はそう呼ばれているらしい。
「あまり大声でそういうこと言わないで」
「照れてるんですかー? かわいいなー、このー」
仕事柄、オフの際には人目につかぬよう行動したいという私の心理を、彼女はこれっぽちも理解できていないようだ。相も変わらずマイペースなこの同業者に、私は毎度のことながら呆れてしまう。
「はあ……。私が生まれてこの方、どれだけかわいいだのキレイだのと言われてきたと思ってるの? それぐらいで照れるわけないでしょう。馬鹿らしい」
「ちょ、まずいですよ、先輩。どこで誰が聞いてるかわからないのに、そんな擦れたこと言っちゃ。それくらい、わたしでもわかるアイドルの基本です。らしくないですよ、あのりこりんともあろう方が」
冗談のつもりで言った言葉を本気で受け取り、一人あたふたする後輩。
「あなた、それ本気で言ってるの?」
つい先程の人目を気にした私の言葉を完全にスルーしたくせに、今度はそのことについて得意気に教導し始めた彼女に、私はまたしても呆れてしまった。
「もちろん。わたしはいつでもマジですからね。そして、りこりんにも真剣」
彼女はそう言って、力強く頷く。後ろで一つに結んでいる黒髪を揺らして。
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