曇り夜裂く月光

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 ちなみに、先輩の同業者を取り敢えずよいしょする、というのはこの業界ではよくあることなので、初めは彼女のこういう態度を疑っていたのだけど、彼女が私のファンであるというのはどうやら嘘ではないらしい。半ば人間不信になりかけている私が探りに探り、疑いに疑いを重ねた末の結論なので、間違いはないと思う。  とはいえ、どうしてよりによってもう朽ちかけの私なんだ? という念は未だに拭えないのだけど。きらきらと輝き咲き誇る大輪なんて、私なんかより他にもっと山程いるのに。 「……ってああ! 先輩! もうばれちゃってます! あちらの方にこちらを指差すりこりんファンっぽい方が! こうしてはいられません、場所を移しましょう!」  物思いに耽る私を現実へと呼び戻したのは、彼女のそんな太陽のように明るい一声だった。 「いや、あれはただ熊を指差しているだけだと思うけど……。まあ、いいか」 「ではでは、次はパンダですかね! りこりんの好きな動物といえば、パンダをおいて他にありませんし」 「そ、そうね……」  事務所が勝手に決めただけで、私が本当に好きなのはライオンなのだが、まあ、わざわざ今言いだすべきでことでもないだろう。  しかして、私は彼女に連れられるがままに、所謂動物園の客寄せマスコットの元へと向かうのだった。  彼女と私が出会ったのは、一年前の四月。  もう、私がこの職業に嫌気がさしていた頃だった。  彼女は、私と同じプロダクションに所属したその日のうちに、私に挨拶に来た。     
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