曇り夜裂く月光

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なぜなら、アイドルとはなにか一つの道を完璧に極めた者のことではないからだ。アイドルは歌って踊って、被写体にもなり、人々を笑顔にもするだろうが、それぞれの道には歌手やダンサー、モデル、芸人といったその道のプロが居り、私達の力では彼等に到底敵わない。けれど、劣っているけれど、だからこその魅力がある。そういったことを彼女は言いたかったのだろう。(まあ、彼女の脳にそこまで考えられる能力があるとは到底思えないのだが)  と、そんなわけで、アイドルというのはよくわからない職種だ。ただかわいいだけでも駄目。ただ歌やダンスが上手ければいいわけでもない。愛嬌がないのが逆にいいと言われることさえある。  故に私は悩んでいた。  こんな評価方法もはっきりとしないもやもやしたものが商売のメインであり、且つ、原価は大したことのないグッズに様々な付加価値を付け高値で購入させ、挙句CDに特典を付け無意味な複数買いを強いる。アイドルとファンの関係とは言ってみれば悪徳詐欺師とカモネギの関係に相違ない。  それを、人に夢を見せる素敵な仕事だと思い込んでいられる内は良かった。今はもう、そうは思えなくなってしまったから。  もう少し若い頃はきっと、私も全力で楽しんでいたし、きっとお客さんにも素晴らしい夢を見せられていた気がする。けれど、今はもうステージに立つと、客を騙しているだけでなく、自分さえ騙しているような気がしてしまうのだ。ファンのみんなに偽の笑顔を届けているような気がして、胃がキリキリと痛む。それを必死で隠して届ける笑顔は、果たして輝きを持ってはいるのだろうか? そんなはずがない。気が狂いそうになる。     
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