0人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな私がアイドルを続けていいのだろうか。いや、もう辞めてしまいたい。そんな想いが、私の心の中でここのところずっと渦巻いている。
そう。端的に言って私はもう、夢を見ることが出来なくなってしまっていたんだ。
そんな大人の女が見せる夢なんて、つまらないものに違いない。アイドルを辞めてからでも、私と結婚してくれる人はいるのだろうかなどと、いよいよ保身が浮かんできてしまうような女に、アイドルとしての価値はもうないのだ。
だから、私は――
「先輩! 見てください、パンダですよ、パンダ! かわいいですねー」
「……そうね」
沙綾のきゃぴきゃぴとした声で、私は暗い思考の海から這い上がらされた。
「相変わらずオフの時はテンション低いっすねー先輩。もっとファンサービスくださいよー」
彼女のような人間は、元来苦手であると思っていたのだけれど、不思議と沙綾といる時間は苦ではない。
「知ってる? ファンサービスってのはファンがいて初めて成り立つのよ」
「ファンなら、ここに! こ・こ・に! いるじゃないですか!」
自分の両頬を両の人差し指で指差しながら、力強く彼女はそう言った。
それがあまりに鬱陶しかったので、私は彼女を黙らせるべく、声のチューニングを始める。
最初のコメントを投稿しよう!