曇り夜裂く月光

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 こんな私がアイドルを続けていいのだろうか。いや、もう辞めてしまいたい。そんな想いが、私の心の中でここのところずっと渦巻いている。  そう。端的に言って私はもう、夢を見ることが出来なくなってしまっていたんだ。  そんな大人の女が見せる夢なんて、つまらないものに違いない。アイドルを辞めてからでも、私と結婚してくれる人はいるのだろうかなどと、いよいよ保身が浮かんできてしまうような女に、アイドルとしての価値はもうないのだ。  だから、私は―― 「先輩! 見てください、パンダですよ、パンダ! かわいいですねー」 「……そうね」  沙綾のきゃぴきゃぴとした声で、私は暗い思考の海から這い上がらされた。 「相変わらずオフの時はテンション低いっすねー先輩。もっとファンサービスくださいよー」  彼女のような人間は、元来苦手であると思っていたのだけれど、不思議と沙綾といる時間は苦ではない。 「知ってる? ファンサービスってのはファンがいて初めて成り立つのよ」 「ファンなら、ここに! こ・こ・に! いるじゃないですか!」  自分の両頬を両の人差し指で指差しながら、力強く彼女はそう言った。  それがあまりに鬱陶しかったので、私は彼女を黙らせるべく、声のチューニングを始める。     
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