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「あー、あー……こほん。……私はー、みーんなのものだからー、誰か一人を特別扱いは出来ないのー。ごめんね! ……はあ。これでいいかしら?」
普段の私からは想像もつかないような甘い声で吐きだされたセリフを聞いて、沙綾は喜びからか凡そ彼女のファンには見せられないようなひどい顔になっていた。何度でも言うけれど、彼女が私の事を好きなのは本当なのだろうが、なぜ彼女が私をそれ程までに好きでいてくれるのかがわからない。
「ありがとうございます! しかもわたしだけでなく、ファン全員に配慮したお言葉! 最高です! やっぱりこりんは神! ふーーー!!!」
なんだかおかしなテンションになっている彼女を見ながら、皮肉のつもりで言ったのだけど、と私は少し不服だった。彼女のそういう嫌味の通じない所は、素直に羨ましい。
そんな茶番を挟みながらも、しばらくパンダを眺めていると、ふと沙綾に手を掴まれた。
「そろそろ行きましょ、先輩」
どうやら、他の動物をご所望らしい。
「もう行くの?」
「はい。こいつ、かわいいんですけどさっきから後ろ向いてばっかで、つまんないんですもん」
確かに、先程からパンダがこちらへ向けているのは終始臀部のみだ。
「もう少し待てば、こっちを向くんじゃない?」
「だめですね。これは今日はもう動かないと見ました」
「なにそれ?」
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