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曇り夜裂く月光
辛い現実という荒波のなか眠れぬ人に、幸せで安らかな甘い夢を見せる。そんな仕事がある。
そして私は、その仕事に就いて……もう、五年になるのだろうか。
「そろそろ寿命なのかな……」
そう呟きながら、目の前で囲われている一番愛想のない熊に向けて、私は三百円の餌を投げる。今私が無為に時間を過ごしているこの動物園では、客から餌代を巻き上げた挙句撒餌という労働まで行わせるという、サービスの体をとった拝金主義の権化とでも言うべき商いが行われている。
餌を客に買わせ、客自身に客好みの動物へと与えさせる。この、一見客に寄り添っているかに見える腐った商業形態が、私は大嫌いだった。
「先輩、よくここに来るくせに、毎回つまんなそうっすね!」
同じ仕事に就く後輩の、嫌味のない朗らかな声が響く。彼女はいつも、一番愛想よく餌をねだる動物に向け餌を放つ。今日もそうだった。
「あなたこそ、なんでこんなとこまでいっつも付いて来るだけじゃなく、毎度毎度楽しそうなのよ?」
「憧れのゆめかわアイドルりこりんと一緒に動物園ですよ? 実質デートですよ、デート! 楽しくないわけないじゃないですか!」
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