第一幕「がらんどう」

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 鳴り響くヒールの靴音。煌めく金色(こんじき)のショートボブ。  凛々しいブラックスーツに身を包んだその女性は、  舞台袖より現れ客席へと優雅に手を振った。 「セイクリッドサイン、マスター・リディルが心より感謝を。  そして謝罪を、皆様に。  イザナミの到着が遅れてる。あれほど言ったのに、困った子だ……」  ステージを見つめる鬼火たちのゆらめきに、ざわめきが走る。 「すまない。彼女はもっと自覚するべきなんだ。  誉れある序列第一位は、皆様の愛により成り立っているのだから」 「――愛? 愛って?」  心臓を流れる血液すら凍てつかせるような声が響き、  次の瞬間、つんざくような金属音とともにステージ中央に何かが突き立つ。  ――グランギニョール前公演 “優勝旗” 。  その鋼鉄のシャフトが震える残響が不意に、絶ち消えた。  鬼火たちのざわめきも、風のうなりも、海鳴りさえもが消え果てた。  流れ落ちる滝は瞬時に凍てつき、劇場は闇に(とざ)された。   「そんなものが欲しいだなんて私、一度でも言ったかしら」   宇宙を思わせる極寒の暗黒と静寂の中に、彼女の声だけがよく響く。 「いらない。いらない。いらない。  私が必要と言わないものは、何一ついらない。  この旗だって、もう、いらない」     
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