神と姦淫

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「奥様、不倫なさってます。私、あなたや五十鈴ちゃんがかわいそうで。証拠もあります。お話させて下さい。こんなの、間違ってますもの」  いきなり本題を切り出してしまったことに少し後悔する。でも仕方ないわ。なんとか落ち着こうとする私の顔をじっと見てから。  くすっ、と。  東さんは笑った。 「いいですよ。そこの喫茶店ででも。お時間は、ありますか?」  私は頷く。 「はい、あります」  美優を部屋に一人にしているのに。  でもいいの。私は正しいことをしているのよ。  不倫なんて許されない。綺麗で裕福でこんな素敵なご主人に締め付けられるように愛されているのに。  その上不倫をするなんて、絶対に許されるはずがないのよ。 「……で。どんな証拠を見つけたんですか?」  喫茶店で向かい合って座り、コーヒーを二つ注文するや否や、東さんは単刀直入に私に訊いた。  相変わらず、綺麗な顔。俳優にそっくりな人がいるわ。背が高くて線が細くて。でも決してひ弱そうに見えない。とても素敵な、素敵なご主人。  私は至近距離の東さんに見とれながらも、悲痛な表情を作ってスマホを取り出す。アルバムを開いて、何枚も撮ったあの女と若い先生のラインのやりとりを開ける。それを東さんに渡して、目頭を押さえるふりをして。 「あんなに思慮深くて、信心深い奥様がこんなことをなさるなんて。あなたを裏切り、五十鈴ちゃんを裏切って。私、悩みました。あなたにお伝えするべきか。でも我慢出来ませんでした。だってこんなこと、許されていいはずがありませんもの」  ……そうでしょう? 不倫は害悪。  発覚しただけで全てを失う人もいる。今はそういう風潮。社会感情が許さない。  あの女も今から、全てを失うのよ。  心の奥で笑いながら東さんの言葉を待つ私に、この人は……この目の前の人は、やはりくすっと笑ったのだ。 「……公認、ですよ」 「え?」  私は意味が分からない。東さんは私の目を見る。 「いい女でいて欲しいから、公認ですよ。俺だけじゃ、飽きるでしょう? やっと新しいのを見つけてきた。もう面倒だと言っていたから気を揉んでいたんだ」 「そ、そんな……! あの人は、母親よ? そんなことが許される訳……」 「長谷部さん。聞いて下さい。神は子である我々の幸せを一番に願ってるんですよ」  東さんはとうとうと話し始める。
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