神と姦淫

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 私の住むフロアに新しく引っ越してきたご一家がいる。  705号室は、エレベーターのすぐ隣。私は709号室に住んでいてとなりという訳でもないのに、ご一家は引っ越しの日にご挨拶に来て下さった。 「初めまして。(ひがし)と申します。705号室に越して参りました。管理人さんに伺ったんです。こちらに年長さんのお嬢さんがいらっしゃるって……」  そう言って菓子折りを差し出す奥さんは大変な美人で、私は息を飲んでしまった。すぐ横には可愛らしい女の子。後ろには、背が高くてとても素敵なご主人が立っていらっしゃる。 「あらら、まあ、ご丁寧にありがとうございます。美優(みゆ)、美優ちょっといらっしゃい……!」    私は慌てて娘の美優を呼ぶ。どうでもいい部屋着を着て、くちゃくちゃの髪の我が子が眠そうな顔をして玄関に現れる。恥ずかしい。ああ、そう言えば私も似たようなものだわ……! 「美優ちゃんて、おっしゃるの? 初めまして、うちの子は五十鈴(いすず)といいます。同じ幼稚園に通うことになるの。よろしくお願いしますね」    奥さんは娘さんの肩に手を置き、美優に目線を合わせて微笑む。五十鈴ちゃんと呼ばれたお嬢さんは、天使のような笑顔で美優に言った。 「仲良くしてね。お友達になってください。ようちえん、ちょっとどきどきしてるんだ」 「大丈夫だよー! 美優ようちえん慣れてるから、五十鈴ちゃんに色々教えてあげる! お友達になろうね!」  子供同士は話が早い。良かったわ、と奥さんは息をついて私に微笑む。 「まだこちらには慣れていないんです。色々相談に乗って頂ければと思って、お願いに上がったんです。よろしくお願いします」 「そんなそんな、何でも訊いて下さいね。こちらこそよろしくお願いします。うちの主人、ちょっと出かけてまして。せっかくご挨拶頂いたのに申し訳ありません」  いえそんな。急に押しかけて申し訳ありませんでしたと言いながら、東さんご一家は去っていく。娘二人は「明日遊ぼうね!」なんてすでに約束をしている。  大変な美男美女、そして子供まで可愛らしいご一家の訪問に、私は胸のざわつきを抑えられなかった。なんでインターホンをちゃんと見なかったの。玄関先はぐちゃぐちゃ、靴は何足も出しっぱなし、しかも私は部屋着にぼさぼさ頭……!  ああ、失敗した。明日から毎日会うであろう東さん。  一体どんな、人なんだろう……。  
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