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翌日から私と東さんの交流は始まった。まずは朝の幼稚園バス。
マンションの下までバスは来てくれる。今まで一人で乗っていた美優は、今日から五十鈴ちゃんと一緒。二人は笑顔でバスに乗り込む。
その姿を見送って、東さんは私に言った。
「ああ、良かったわ。美優ちゃんのおかげです。よろしかったら長谷部さん、今日うちにいらして下さいません? 色々お話が出来ればと思って」
東さんは朝から完璧な外見に仕上がっていた。メイクも髪も、服もとても素敵。長い栗色の髪は綺麗に巻かれていて、淡いクリーム色のワンピースにパンプスまで履いている。
対して私は、Tシャツに短パン。しかもすっぴん。だってマンション内だから。
でも、恥ずかしい……。
「いいんですか? まだ落ち着いてらっしゃらないんじゃ……」
だって昨日引っ越してきたばかり。でも東さんはにっこりと笑った。
「引っ越屋さんが有能で、全部終わりました。ぜひいらして。私あなたと、仲良くなりたいの」
「じゃあ、10時頃に。……お邪魔、しますね」
そうして私達の付き合いが始まった。私の狂おしい嫉妬の日々が。
こうして始まった。
東さんのおうちは大変に綺麗で、私は驚きを隠せなかった。まるで神殿のようなインテリア。引っ越したばかりだから片付いている、なんて単純なものではない。
そこかしこに置かれたプリザーブドフラワーとマリア像。白を基調とした優美な家具。まるで、まるで教会のような美しさ……。
「私、クリスチャンなんです。幼稚園からカトリック系の学校に通ったから。でも、安心して下さいね。新興宗教じゃありませんから、勧誘したりはしませんから」
紅茶を淹れて下さるその爪は淡いピンク。一応化粧はしてきたけど、私は自分の短い爪を無意識に隠していた。
そして私達は色々な話をする。この地域のことや幼稚園のこと。東さんはふんわりとした話し方だけど、自分の訊きたいことを順序立てて私に質問する。
綺麗なこの人。きっと賢くてお金持ち。ご主人はまるで俳優のように素敵だった。お子さんも可愛くて素直そう。
なんて恵まれた人なの――。
私はお茶を頂きながら、やっぱり胸のざわつきを感じていた。だってこの人と私はあまりにも違い過ぎる。
でも、うまくやっていかなきゃ。
私は笑顔を浮かべ、本音は胸に仕舞って彼女の質問に答えていく。
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