神と姦淫

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 私は東さんとどうにかうまくやって、月日は流れた。美優と五十鈴ちゃんはとても仲良し。五十鈴ちゃんは学習塾やピアノなどの習い事をしていたけれど、美優の唯一の習い事であるスイミングにも、最近になって一緒に通い始めた。 「五十鈴ちゃん、運動神経がいいのね。あっと言う間に美優がいるクラスに上がりそうだわ」  保護者席で並んで座ってそう言う私に、東さんは笑う。 「私はとても運動音痴なの。主人は運動が得意だから、五十鈴は主人に似たみたい。良かったわ、私自転車すら危ういんですもの」  屈託のない東さん。付き合ってみて分かったけれど、この人は性格まで綺麗だった。何もひけらかさず、控え目でとても優しい。  クリスチャンだからそうなのかしら。ご主人も五十鈴ちゃんもそうなのだという。だからこの人達はこんなに素敵なの? うちなんか無宗教よ。  うちの旦那は運動なんか一切しない。仕事が終わればすぐパチンコ。休みの日は寝てるだけ。禿げてきたし太ってきた。東さんのご主人はあんなに素敵なのに。  東さんはいい人。それは分かってる。でも私は好きになれない。だって私とあまりに違い過ぎるから。  私だって最近は綺麗にしてる。東さんを真似て爪を伸ばして。  でも旦那はそれに気づかない。  私だって、最近は綺麗にしてるのに……。  とある夜。  遅くに帰って来た旦那が酒を買って来いと言う。  どうせパチンコに負けたんだわ。普段はお酒なんて飲まないくせに。  すってんてんになるとこうやって帰って来て我儘を言う。自分で買って帰ることも出来ないぐらいに負けているのよ。  ケンカをしてもいいけれど、美優が寝ている。私は黙って財布を片手に玄関を出る。  エレベーターに乗ろうと廊下を進む。時間は12時前。  どの家も廊下側の部屋の電気は消えている。遮光カーテンが閉まっていても明かりは漏れる。みんな寝ている。そうね、今日は水曜日。  ああ馬鹿馬鹿しい。私も早く寝れば良かった。後悔しながらエレベーターホールに向かう私の耳に。  聞いてはいけない声が聞こえる。705号室の前。  この声は東さんの奥さんの声だわ。普段上品なあの人から出るだなんて思えない。  あられもない、いやらしい嬌声。
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