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私の心は狂おしいほどの嫉妬で満ち満ちていた。あの人は、あの素敵なご主人とそんなことをしているの?
とても品が良くて素敵な東さん。クリスチャンで家にはマリア像や十字架がたくさん飾られていた。まるで神殿のように美しいあの家。
私はあの廊下側の寝室にも入ったことがある。五十鈴ちゃんに連れられ美優があの部屋でかくれんぼをして。
人様の寝る部屋に入ってはいけませんと怒りながらも、私はこの目でしっかり見たのよ。
綺麗な花柄の上掛けがかかった大きなベッド。ここにはパパが一人で寝るんだよと、五十鈴ちゃんは言っていたのに。
あの人はあの部屋であんな声を上げてそんなことをするんだわ。私は悔しくて悔しくてたまらない。
買って帰ったビールを投げるように旦那に渡して、美優が寝る布団に黙って潜り込む。
私なんてそんなこともう何年もしてない。
そう、美優を産んでからしてないわ。だって私はとても太ってしまった。
どうしてしてくれないのと勇気を出して訊いた私に、旦那は言った。
「痩せてから言えよ。ブタと何ができるわけ?」
……自分だって、どんどん醜くなっていっているくせに。
東さんはしているのね。あの素敵なご主人と。
私は悔しくて仕方ない。挨拶しか交わしたことのない東さんのご主人と。
そんなことをする自分を想像しながら、美優のとなりできつく目をつぶる。
翌朝も、いつもと変わらず綺麗な東さん。
バスに乗る五十鈴ちゃんにも変化はない。もしかして、日常茶飯事なのかしら。
昨夜私はたまたま買い物に出た。だから耳に入っただけで。
普段から東さんはそうしているのかしら。私が気付いてなかっただけで。
東さんはあのご主人と、いつもあんなことをしているのかしら――。
その翌日も私はあの時間に外に出た。旦那も美優もとうに寝ていたけど。
だっていけないじゃない。あんな声が外に漏れていたら。
同じ階には高校生や中学生の男の子もいる。遅くに帰って来るご主人だっていないとは限らない。
聞かれたらきっと東さんが困る。だから私が注意してあげるの。
またあの声がしたら、私が注意をしてあげるのよ。
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