神と姦淫

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 もうどうやったって敵わない。あの綺麗な綺麗なクリスチャンの東さん。  素敵なご主人にそんなふうに扱われて。そりゃ綺麗なままでいる訳よ。うちなんかあんな旦那に触られもしない。私はもう女ですらないんだわ。  でも、それの何がいけないの。私は、母親よ。  女でいる前に、母親よ。私の仕事は美優を立派に育てること。母として、私は何一つ間違ってなんかいない。  マンションの廊下に嬌声を響かせる女より、私は間違いなく『母親』よ。私はあんなみだらな女とは根本的に違う生き物。  だってあの女はこんなことも言ったわ。 「やっぱりクリスチャンは食事の前にお祈りをするの?」と、私が訊いた時。 「いつでもいいのよ。形もないの。本当の信仰は、形にははまらない。神はいつでも私達を見て下さってる。ただ私達を見守って、幸せを願って下さるのよ」  綺麗な言葉で繕って。  結局はメスなのよ。あのご主人だってそう。クリスチャンってそんなもの? 変な性癖。小さな娘がいるのに。  今日も二人でスイミングの保護者席に座って。  当たり障りのない話をしながら、私はこの女を蔑む。  そしてまた時は流れる。最近あの女は私をお茶に誘わない。  以前は週に2度はあの家を訪れていたのに。  どうしたんだろう。娘と一緒になら誘われるけど、午前中に私一人を誘うことはなくなった。  私は試しに言ってみる。娘達をバスに乗せてから。 「今日おヒマ? お話がしたいわ」  すると女は困った顔。ごめんなさいねと申し訳なさそうな顔で言って。 「今日は約束があるの。またお誘いするわね。美優ちゃんと一緒に、帰りに寄ってちょうだい」  いつもどおりの綺麗な笑顔。私は分かったわと言ってから。  心を決める。  あの声を聞きに行った夜のように、どんな約束があるのか探ってやろう。  この綺麗な姿のみだらな女は、きっとまた神に背くようなことをするに違いない――。
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