神と姦淫

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 私はマンション前の喫茶店に陣取る。入り口が見える窓の側。ここからなら、マンションへの出入りは一目瞭然。  一応変装をしてきた。とは言え、あの女が着るような服を着てみただけ。美優の入園式の時に着たツーピース。また少し太って、背中のファスナーが危なかった。  でもいいのよ。ちゃんと閉まるもの。母として正しい私は、背筋を伸ばして座ってあの女が現れるのを待つ。  間違いは正さなきゃ。またきっと変なことをしているのよ。  だから私はママ友として、ちゃんと指摘してあげなくちゃならない。  9時前に、あの女は姿を現す。朝見たままのワンピース。今日は紺色。パンプスはなんと、赤。  つばの広い帽子を被っている。まるで女優みたい。悔しいけど、素敵。こんな格好で、一体どこに行くんだろう。  私はお会計を済ませ、こっそりとあとを追う。追跡はあっと言う間に終わる。マンションから出たすぐ脇の道で、あの女は車に乗るから。  ……運転しているのは若い男。私もよく知っている相手。スイミングスクールの……  顔がきれいで筋肉質で、まだとても若い、素敵な先生。    その車を追うことも出来ず私はただ立ち尽くす。  これは一体どういうことなの。なんであの女があの先生の車に乗るの。  美優も大好きなあの先生。「かっこいいから、美優だいすきなのよ」と言って慕うあの先生。   ――これは、異常事態だわ。  私は確信する。  あの女、不倫をしているわ。あの若いスイミングの先生と。  だってそうでもなきゃあの事態はあり得ない。弟でした、なんてオチもあり得ない。あの女は遠い都会からやって来た。あの先生は、地元の高校を出たと聞いたことがあるわ。  不倫を、しているのよ。ご主人がいるのに。あんなふうに扱ってくれるご主人がいるのに。  あのたくましい身体のかっこいい先生と。あの時聞いたような声で、またメス犬のように喜ぶの?  許せない。母親のくせに。  私と同じ母親よ。小さな子供がいて、ご主人がいて。  許せるはずがない。私は決意する。  暴いてやるわ。あの女の本性。暴いてご主人に教えてあげるのよ。 「あなたは騙されています。あなたの奥さんは、とてもとても悪い女です」  きっとご主人は、私に感謝して下さるわ。   だってあの人達は、クリスチャン、なんだから 。
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