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北城寺の廃旅館①
空を見上げるとサギが優雅に円を描き、横の綺麗に区画された田んぼには田植えのための水がドボドボと水路からひかれている、のどかな風景がそこにはあった。桜のつぼみがほころんで早一週間。温かい春の日差しに恵まれて、もうすぐ花も満開という頃。都会からやってきた青年は最終駅のホームに降り立った。
「やっと着いたか。結構かかったな。」
腕時計を確認すると長針は三時前を示していた。ずっと座りっぱなしだったのか彼は両手を空へ伸ばして大きく伸びをする。
「ふう、それじゃ紹介された旅館を探すとするか。駅からそう遠くないとか役場の人は言ってたし、すぐ見つかるだろ」
彼、高麗和尊はここ、耆南町に地域貢献隊としてやってきたのである。都会で人間関係に悩み、体調を崩していたが一年近くの療養の末、ようやく回復したので前から興味があった地方での仕事を探していたところ、この町が応募していたので応募し採用されたのだった。元から行き当たりばったりということを念頭に置いているせいか、この仕事で失敗したら帰ればいいという気持ちでやってきたのだった。
「さて、宿は…っと。あっちか。畝傍屋って言ったっけ」
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