北城寺の廃旅館①

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 役場の職員からあらかじめ渡されていたこの辺一帯の地図をパラッと広げ、大きな目で宿を探しながら歩を進める。幸い、駅前なのに車がほとんど通らないため地図に集中していても全く問題がなかった。地図の通りに駅前から歩いて5分もしないうちに周りからは民家が消えて、田んぼや雑木林だけになる。すぐに歩いている地面もアスファルトから舗装のされていない砂利道へと変わった。 「うーん、おかしいな。この地図だとすぐに着くみたいになっているけど、もう20分くらい歩いてるぞ?」  その地図には駅から歩いて5分ほどの距離に『畝傍屋』と書かれた宿があるので、簡単に間違えるはずはないのだ。読み間違えた可能性もあるが、和尊は地図の読み方にはある程度自信があったし、駅から一本道だからその考えはすぐに否定していた。 「もう少し歩いて、何もなければ引き返そう。…ん?」  道の傾斜がだんだんときつくなり、息が上がり始めた和尊がカーブを曲がると、つきあたりに古びた一軒家が建っていた。その家の門には半分朽ちた檜の板が打ち付けられており、かろうじて『畝傍屋』と読める。家の壁は長年手入れされていないのか、蔦がびっしりと一面を覆っている。昔は真っ白だったと思われる土壁も風雨にさらされてすっかりくすみ、一部は崩壊して無造作に破片が地面に転がっていた。 「な、なんかすごいところだ。これで人が住んでいるのか?」     
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