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あの日も雨だった。
幼い私はどうやったのか、気付いたらこの空色に満ちた場所に居て、果てしない空間の中でただ泣くことしかできなかった。
濡れた雨合羽から落ちる滴と、溢れる涙がいくつも水面に落ちて、揺れる水面の中心で、私は泣きじゃくっていた。
そこに、彼女を含めた魚の群れが通りかかって、彼女は一人そこから外れて、私のもとに泳いできてくれたのだった。
「お前、どうやってここに来たんだい?」
スゥっと泳いできた彼女は幼かった私から見ても美しく、一瞬泣くのも忘れて彼女を見つめたほどだった。
「おやおや、酷い顔だねぇ。そんなに泣かなくても、私はお前に何もしないよ」
私は泣いていることを指摘されてまた不安になり、泣きながら彼女に事情を説明した。
「ここはどこ? おかあさんといっしょにいたのに、いなくなっちゃったの」
「ここは……お前がいるのとは違う世界だよ。迷い込んでしまったんだね。大丈夫だから、よく耳を澄ませてごらん。お母さんがお前を呼ぶ声が聞こえてくるはずだから」
私は彼女に言われたとおり、黙って耳を澄ませた。
すると確かに、遠くで声がするような気がした。
「おかあさん……?」
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