青い魚

2/8
前へ
/8ページ
次へ
 あの日も雨だった。  幼い私はどうやったのか、気付いたらこの空色に満ちた場所に居て、果てしない空間の中でただ泣くことしかできなかった。  濡れた雨合羽から落ちる滴と、溢れる涙がいくつも水面に落ちて、揺れる水面の中心で、私は泣きじゃくっていた。  そこに、彼女を含めた魚の群れが通りかかって、彼女は一人そこから外れて、私のもとに泳いできてくれたのだった。  「お前、どうやってここに来たんだい?」  スゥっと泳いできた彼女は幼かった私から見ても美しく、一瞬泣くのも忘れて彼女を見つめたほどだった。  「おやおや、酷い顔だねぇ。そんなに泣かなくても、私はお前に何もしないよ」  私は泣いていることを指摘されてまた不安になり、泣きながら彼女に事情を説明した。  「ここはどこ? おかあさんといっしょにいたのに、いなくなっちゃったの」 「ここは……お前がいるのとは違う世界だよ。迷い込んでしまったんだね。大丈夫だから、よく耳を澄ませてごらん。お母さんがお前を呼ぶ声が聞こえてくるはずだから」  私は彼女に言われたとおり、黙って耳を澄ませた。  すると確かに、遠くで声がするような気がした。  「おかあさん……?」     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加