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私は彼女に暫く、他愛のない話を聞かせた。
彼女には関係のない話ばかりでも、彼女はいつも黙って話を聞いてくれた。
やがて沈黙が多くなり、私の周りを彼女はゆっくりと泳いで回った。
「……そろそろ、帰ろうかな」
私がそう言うと、彼女もそれに頷いた、ような気がした。
「そうだね。だいぶ長くここにいたから、そろそろ戻った方が良い」
彼女がそう言うので、私は荷物を持って仰向けに寝転んだ。
足元は沈まなかったのに、どういうわけか寝転ぶと水面に浮かんでいるような感覚がする。自分の体がたゆたうのがわかる。
見上げる空は何処までも青く、そこを泳ぐ彼女はやはり美しい。
「……また会えるかな」
「どうだろうね」
もしかしたらこれで、ここに来るのは最後かもしれない、という予感が、その時私の頭を過った。
でも、それでも構わないか、と私は穏やかに思う。だって、彼女は私を覚えていてくれる。
「さよなら」
私はそう伝えてから、目を閉じた。
さようなら、という彼女の声が、遠くから聞こえたような気がした。
パシャン、と自分が水たまりを踏んだ音がした。
ハッとして足を止める。私は浅い水たまりの中に立っていた。
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