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老婆というより老翁の声を思わせる不思議な声だ。
年を取った人間と出会いそうなところ、と言えば騎士団の関係者だっただろうか。
そもそもこの雰囲気の人間をその時警戒していなかったという事があり得ない。
そして、この胡散臭い喋り方をされて警戒しない方がおかしい。
「不要だと言ったら?」
俺がそう言うと老婆はニヤリと笑った気がした。
「いえ、勲章をもらった将軍様の足がそんな風だと国民として申し訳なくて。」
他のどんな話だったとしても追い払うか、若しくは正体を掴んで切り伏せていただろう。
けれど、その老婆が持ち出したのは自分の足の話だった。
日常生活はやや不便な程度だが、もう戦えない傷を右足に負ったのは数か月前の事だ。
それで除隊をしたのだが、どんな医者にもさじを投げられたのだ。
出来る筈の無い事を言う老婆に苛立つ。
「その足、治せると言ったら?」
「……対価はなんだ?」
この老婆が欲している物は何だ。
いっそ悪魔が魂と引き換えにしているという方が分かりやすい。
「いえ、その必要はありません。」
老婆は喉の奥で粘着質な音を立てて笑った。
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