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「さあ。けれど一般論として、別の理由で同じ感情が湧くこともあるのかもしれません。」
魔法使いは淡々と答えた。
それは、まるでそんな日は来ないと言っている様だった。
「アンタは俺に魔獣を狩って欲しいのか?」
「ええ。」
絆されてしまったということだろうか。
そんな事はどうでもいい。
「であれば、とりあえずはアンタへの借りを返すために軍で魔獣でも何でも退治してやろう。」
喜ぶと思っていた。魔獣が憎いのだという事は充分分かっていた。
それなのに、魔法使いは顔を悲痛にゆがめて、ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「あれ?不思議ですね……。」
魔法使い自身何故涙を流しているのか分からないらしく表情とは裏腹の平坦な声で困惑している。
人間の感情はそう単純なものでは無い。
ああ、もしかしたら魔法使いの中に対価に差し出さなかった感情が残っているのかもしれない。
「魔法使い、まずは名を教えてはくれないだろうか。」
最初から始めよう。この恩人との関係はこのままにしておくべきでは無い。そう思った。
魔法使いはキョロキョロと視線を彷徨わせて、それから小さな声で名を名乗った。その様子は、今日見た中で一番感情がこもっている様に見えた。
足はまだ少しこわばりが残っている。
完全に以前の様にとはいかないだろう。
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