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「対価は……。」
そこまで言って老婆はもごもごと口を動かす。
そんなに言いにくい事なのだろうか、先程までよりさらに訝し気に老婆を見ると老婆の瞳と目があう。
どこかで見た瞳だと思ったが、思い出せない。
数秒の事だろうか、老婆が不意に目をそらした。
「対価はすでにいただいております。」
「それはすでに盗んだという事か?」
「いえ、……他の方より既にいただいております。」
老婆の言っている意味が理解できなかった。
「他の人間から奪ったということか?」
「まさか!望んで差し出した人間がいるということですよ。なにせあなた様は救国の英雄なのですから。」
今まで戦ってきてその結果国は守られているとはいえ救国の英雄は大仰だ。
その程度の人間の為に何かを差し出したという言い方自体酷く怪しい。
「そいつは誰だ。」
「……それはお答えできません。対価が必要ですから。」
老婆はニチャリと笑った。
「それでは、その人間は何を差し出した。」
「……最初は髪の毛、次に視力の一部、最後に声と聞いております。」
それこそ、どこの誰とも知らない人間が差し出すものとは思えなかった。
「断る、と言ったら?」
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