彼女はいつも

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男二人がかりでないと持ち運べないほどの巨大な自作絵画を運んでいても、思わずニヤついてしまうほどの喜びと、何でも軽々とこなしてしまう親友への優越感を感じていた。 俺たちはようやく絵画をトラックに乗せ終えた。 この絵画は“高校生美術コンクール 絵画部門”に出品される。 早朝の浜辺に降り立った天使を描いたものだ。 タイトルはそのまま「天使」だ。 金と白を基調に繊細に描いた。 いつのまにか天使は山田さんにそっくりになっていた。 数日後の放課後、今度は俺は一人で忘れ物を取りに教室に戻った。 教室に入る直前、俺は思わず足を止めてしまった。 山田さんが椅子に座りパラパラと本をめくっている。 夕日に照らされた山田さんの横顔は、俺が描いた天使にやはり似ていた。 (俺が似せて描いてたんだから当たり前か) 「あ、田中くん。 今涼介くんが部活終わるの待ってたんだ」 振り向いた山田さんが言った。 「そうなんだ」 俺はそれしか言えなかった。 俺に向かってにっこり微笑む山田さんの腕は両腕とも机に載せられていた。 快活な足音が教室に近づいてくる。 「あっ涼介くん!」 涼介の登場に山田さんは弾かれたように立ち上がり、「またね」と小さく俺に手を振ると涼介の元にかけて行った。 「彼はいつも自意識過剰なんだよ」 そう言って笑う涼介の声と一緒になって笑う山田さんの声が廊下から聞こえてきた気がした。 俺は、数日前の美術室での山田さんの姿を思い出していた。 あの時の彼女は俺ではなく自分そっくりの天使を見ているときに腕を組んでいたのだ。 帰宅すると“高校生美術コンクール 絵画部門”に電話をかけてタイトルの変更を申し出た。 「では、確認ですが、“天使”ではなく“自惚れ”に変更ですね?」 事務係の女性が言った。 「はい、お願いします」 “自惚れ”は佳作となった。
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