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「彼女は、いつも好きな人の前だと腕を組むんだよ」
山田さんが美術室から出て行った後、親友の涼介がそう教えてくれた。
15分ほど前、俺は涼介と一緒に美術室に自作絵画を取りに来たのだ。
山田さんは、そのとき腕組みをして俺の絵を鑑賞していた。
俺に気付くと
「これ田中くんが描いたんだ? 上手だね!」と
褒めてにっこり笑ってくれた。
色白の頬がきゅっと持ち上がり、目が三日月のように細くなる様がたまらなく可愛らしい。
「ありがと」
俺はそっけなく答えた。
去年、この高校に入学したときから恋している女の子と気軽に話すことはできない。
でも、いつか下の名前で呼んでみたい。
いつか下の名前で呼ばれてみたい。
それが俺のここ最近の欲望だった。
だから、涼介が「美雪ちゃん」と呼び、山田さんが「涼介くん」と呼んでいるのを聞いた直後は言い知れぬ嫉妬心を覚えた。
だけど、たった今「彼女は、いつも好きな人の前だと腕を組むんだよ」という涼介の一言で俺の嫉妬心はどこかに吹っ飛んだ。
単純なものだ。
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