2.はじまりのはじまり。

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 ベルンシュタインと言えば、この世界の人間では無い美月さえ一般常識として知っている貴族の名門ルーデンボルグ家が治める領地だ。王家にも繋がる古い家柄で、御領地は王家に次いで一番広く、現在の当主は国と王家の政務中枢を支える宰相様。当然資産はたんまりあるだろう。貧乏な画家見習いの自分にはまさに渡りに船の、願ってもない依頼である。  そう、有り得ない程美味しい話だ。 (……美味しい話には裏がある)  そこで、美月ははたと正気に戻った。  画材の為にかなりの節約生活を送っていた元来貧乏性の美月だ。頭の中でぐるぐるとヘリオスから聞いた情報でウハウハしてすっかり舞い上っていたが、ここは美月の居た世界では無い。元居た世界の一般常識が、ここでは全く通用しないこともままあることを、数ヶ月の短い間に美月は身を以て学んでいた。  訝しげに師匠を見ると、彼は珍しく上機嫌な様子だ。  いつだって不機嫌そうな顔で、偏屈で、めんどくさがりで、ケチな師匠が上機嫌――これは、ますます怪しい。 「どうした? 嬉しいじゃろ?」 「お師匠」 「な、なんじゃ?」  美月の様子に何かを感じ取ったヘリオスは、少し吃りながらゆっくりと目を逸らしていく。  あ。  これは売ったな。  美月はその瞬間に全てを把握した。  数ヶ月の間ではあったが、突然やって来たこの見知らぬ世界で、美月が途方に暮れていた時にヘリオスに引き取られた。     
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