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身寄りも無く、見た目も地味で怪しげな、見ず知らずの自分をヘリオスは引き取ってくれた。そのことに恩義を感じ、美月はやがて衣食住を与えて貰う代わりに彼の身の回りの世話や、彼が手掛けている宗教画の手伝いなどをするようになっていた。だから……なのかもしれない。美月は、自分が彼の弟子にして貰えたのだと思っていた。
だが、この様子だと、どうやらそれも自分の勘違いだったのかもしれない。
そのことは美月に少なからず衝撃を与えた。
「ひどい!! 私を売りましたね! 幾らで売ったんですか?!」
「う、売ってなどおらん。わ、ワシはただ美月に……うっ――」
美月の涙を浮かべた目が初老の男を見据える。
「……幾らです?」
「……当面の援助と、生活費に困らない程度の給金……」
「それと?」
「……教会の宗教画の依頼が幾つか……」
美月は口をひき結んで身体をわなわなとさせると、キッと顔を上げてヘリオスを見る。
「……分かりました。今までお世話になりました……」
「美づ――」
「明日からとは言わず、今から出て行きます! 見ず知らずの私を……助けて頂き、今まで……本当に、ありがとうございました……」
ガバッと勢い良く頭を下げると、部屋の奥へ進み、ガチャガチャと荷物を纏める。哀しいくらい荷物の少ない自分の部屋を見て、美月はまた込み上げて来るやるせない気持ちに蓋をすると、まだ茫然としているヘリオスの前を過ぎり、入り口の木の扉の前で立ち止まる。そして、深々と頭を垂れた。
「美月、ワシは――」
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