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まさか、師匠が私をそんなに疎んでいたとは思わ無かった。
役に立つことは自分なりに考え、それなりにやって来たつもりだった。数ヶ月の間に彼にこの世界の画法を学びながら、師弟としても信頼して貰えつつあって、自分はヘリオスと上手くやれていると思っていた。
だが、考えてみれば確かに自分は、絵を描ける以外には特にこれと言って特徴が無い人間だ。
話術が得意な訳でも無い。手先が特段器用だと言う訳でも無い。何か専門的な技術を持っている訳でも無い。
この世界にやって来て、そのことを改めて痛感した。
ただの美大生であった美月が得意なことと言えば、師匠の世話を出来る程度に家事が得意なこと……ぐらいだろうか。
それに加えて自分の容姿もまた、特に目立つ容貌でも無かった。
背中の真ん中まで伸びた真っ直ぐの黒髪。黒目がちな瞳。年頃の娘にはあるまじきだろう化粧っ気の無い自分の顔。痩せぎすとまではいかないが、胸ばかりが目立つ薄い身体。
そして、その細い身体を包むのはゆったりした男物の服。
この出で立ちの所為で、この世界で何度男に間違われたか分からない。
「……っ……」
いかん。涙が出て来た。
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