4.準備は万全に。

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 レオンハルトには、黙っているのもおかしいのでヘリオスと決別したこととその経緯を簡単に伝えた。その上で、おずおずと遠慮がちに滞在先をどこか紹介して貰え無いかと美月が尋ねると、彼は美月が女性であること、そして、ここへは自分が呼んだのだからと、この邸内に美月の滞在する部屋を用意してくれた。  普段は来客用にしてあると言う部屋は、シンプルな造りだが、調度品に格調がある。 (……やはりルーデンボルグ家って大貴族なのね)  細やかな用事は、部屋付きの使用人が手伝ってくれる。正直、至れり尽くせりだ。  レオンハルトに画材を取り寄せて貰っている間に、日々を肖像画の為に念入りに木炭でデッサンを重ねた。  レオンハルトはまだ十七歳だが、父親である先代の公爵は長年の過労が祟って身体を壊し、爵位を息子に譲って郊外の別荘で療養しているとのこと。今、目の前で書類を読んでいる少年は、何とルーデンボルグ公爵その人であったらしい。 「……何だ?」 「あ、いえ。いつも忙しそうですね……」  静かな部屋で、サラサラと紙を滑る木炭と、彼の捲る紙の音が響く。 「まぁ、そうだな。もう、慣れてしまったが」  何でも無いことのように、彼は答えて再び机に向かう。  レオンハルトは多忙だ。朝も早くに家を出て行き、夜も夕食後は遅くまでずっと机で何か書き物をしている。その多忙なスケジュールの中、彼がいる間に美月は邪魔にならない位置から彼を描いた。  丹念に、表情を一つ一つ写し取るように。  
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