5.どれを使うか迷います。

3/7
1481人が本棚に入れています
本棚に追加
/309ページ
 暫くして「ああ」と、美月のいる三階の窓までは聞こえなかったが、短く彼がそう口を動かし、軽く手を上げた。そのまま馬車に乗り込んでしまったレオンハルトの表情は、もう見えない。  しかし、馬車に乗り込む前の一瞬、彼の口の端が僅かに上がっているように見えた。 (……笑った?)  朝からレオンハルトを見るのは初めてだ。  普段はもう少し遅い時間に起きるから、彼を見送ることは無い。  彼はフロックコートのような長めの上着をかっちりと着込んでいた。元々綺麗な人だから、朝陽にきらきらと映えるさらさらの金の髪と姿勢の良い立ち姿も相まって、すごく絵になる光景だった。 (朝から目の保養になったわ……)  肌寒くなって来た美月は、彼が乗る馬車が門の外へと出て行くのを見送ると、窓を閉めて室内に戻り、再びにまにまとしながら画材の実験を始めたのだった。
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!