5.どれを使うか迷います。

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 この所、年頃になりつつあるレオンハルトの元へは、毎日のように縁談が持ち上がっている。貴族の御令嬢のお誘いも増えているが、その殆んどが、名門であるルーデンボルグの名に釣られてやって来る地位と名誉、資産目当てであることは言うまでもない。おまけにレオンハルト自身の容姿も悪く無いとくれば、女達が放っておく訳もない。まだ若く、経験も少ないであろうハイスペックな公爵様を、青田買いとばかりに色恋でどうにかしようと粉をかけて来る女達の視線や振舞いには、実のところ既にうんざりしていた。  それなのに、言われてみれば、あの邸に呼んだ日から、美月とはほぼ毎日邸の執務室で共に過ごしている。二人共に何か話をするのも稀で、ただ二人同じ空間で過ごしているだけのことだが、彼女はいつも自分に媚びを売るようなことも無い。純粋に絵を楽しそうに描いている。それ以外では食事をたまに共にすることがあるくらいだ。  面倒ごとなど、当然無い。  自分は、それを毎日の日課としていただけ、だったはずだ。 「……惚れた女?」 「は? 面倒ごとは大嫌いなお前が、その女のことは、めんどくさいなんて思わないんだろ? 惚れてるじゃないか……」 「……出会ったばかりですが?」 「何言ってんだ? 出会った時期なんてもんは関係無いだろ……一目惚れでもしたのか?」  惚れた女。  一目惚れ?  ――ぐるぐると、レオンハルトの頭に今朝出仕の時に、自分を笑顔で見送ってくれた美月の顔がちらつき、その上にアルフレッドの言葉が渦巻く。 「…………」 「おい? レオン?」  アルフレッドの言葉に、自分の心の奥が騒めく。名前を与えられた瞬間に、覚えも無くそこにあったその感情の存在に気づいてしまった。     
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