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何せ画材が届くまでひと月も時間があったので、構図を考える時間は死ぬ程あった。だから、幾つかバリエーションを考えてあるのだ。今日はその構図に、彼の意見を取り入れるのが主な目的で、彼の執務室へやって来た。多忙な彼がモデルを出来る時間は限られている。その為、この時間も彼の意見を聞きつつ、更にいつものようにデッサンもやっているのだ。
片手に木炭、片手に木炭のデッサンには必需品である消しゴム代わりに使うパン。スケッチブックと鉛筆は無いから日本画を描くつもりではあるが、デッサンは木炭でしている。ぐにぐにと千切った消しゴム代わりのパンを丸めながら、紙の画面に押し付け、そっと彼の様子を伺ってみる。
すぐに目が合ってしまった。
――しかし、やはり変だ。
いつもなら、脇目も振らず、机に向かって書き物をしていたりするのに、レオンハルトは先ほどからどこかぼんやりしている。そして、いつもなら書き物に集中しているはずの彼と、今日はやたらと目が合う。
(……な、何だろう?)
美月はレオンハルトを描く為に、当然ながら彼を毎日良く見ている。だが、レオンハルトは? 彼は何故、今日に限ってやたらと美月を見つめて来るのだろう?
こちらから見つめること、観察することには慣れているが、逆の立場でこんなにも人にじっと見つめ返されることは、美月にはあまり経験は無い。
「……美月」
「えっ? は、はい?」
急に名前を呼ばれて、驚いて返事をすると、レオンハルトはあの青く澄んだ美しい目でこちらを見ている。
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