7.下絵を描きますよ。

1/6
前へ
/309ページ
次へ

7.下絵を描きますよ。

「…………」  ぼんのう。ぼんのうってどんな字書くんだっけ?  ぼんのう……煩悩……あ、これだ!  何だか危うい雰囲気を漂わせた執務室を出て、自分に与えられた部屋にふらふらと戻りながら、美月は今尚、妙な具合に騒ぐ胸を押さえた。別に仏教徒でも何でもないが、自信を持って言える。  今の自分は、煩悩まみれだ。  ハスキーなレオンハルトの声が、妙に耳に残っているし、彼の細い指が触れた場所が熱い。 「いや、おかしいって……」  あれは揶揄われただけだ。  私に興味があるのかと尋ねれば『ある』と答え、私の身体に触れてみたいと、彼は言った。  それは異性に対しての興味であって、私自身への興味ではないのではないかと思うのだ。 (だって、おかしいもの。私は……)  自分の身体を見下ろし、美月は溜め息を吐いた。  レオンハルトが用意してくれた自分の滞在する部屋のクローゼットには、着替えとしてドレスも数十着は用意してくれていた。だが、絵を描くのにはドレスの裾は長過ぎて、ひらひらの袖は筆を握るのには向かない無くて、美月には邪魔でしかない。     
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1487人が本棚に入れています
本棚に追加