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だから、男物の服を貸してくれるように頼んだ……にも拘らず、ヘリオスの元に居た頃のように、身体の線を隠すようなぶかぶかとした服では無く、自分の身体にあった服をわざわざ贈られた時には、何故自分のサイズが判ったのだろうかと首を傾げた。
それから今でも変わらず、美月の身を包んでいるのは、動きやすさと実用性を重視した男物の服だ。長い髪も常に結い上げていて、見かけは本当に男のようだと自分でも思う。
自分の部屋の前に辿り着き、冷たい鉄製のドアノブに手をかけたまま、再び息を吐いた。
年下の男の子が、こんな年上の、しかもこんな風に女っぽさの無い自分に興味を持つはずなんて、無い。彼のような恵まれた境遇の男ならば、女性だって選び放題のはずだ。わざわざ適齢期をそろそろ過ぎようかと言う頃合いの自分を選ぶなど……
そうだ。やはり揶揄われただけだ。
自分でも卑屈だと思うけども、自分はただの異世界から召喚された大学生。今は画家見習いだけれど。
どちらにせよ、あまりにも分不相応な期待などしてはいけない。
(何を考えてるんだ。私は……)
……そうだ。
私には、好きなものがある。彼のことなど忘れて、好きなことに没頭すればいいんだ。
部屋に戻った美月は、この世界に来た時に持っていたトートバッグを取り出した。この中身の殆どは、貴重なあちらの世界から持って来た岩絵具と三千本膠と墨と硯。そして刷毛と筆の束である。
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