1487人が本棚に入れています
本棚に追加
抱えて戻った木炭のデッサンを並べ、構図を捻りながら岩絵具の入った小瓶を幾つか取り出す。ゆらゆらと揺れるオレンジ色の蝋燭に照らされる色取り取りの絵具を一つ一つ見ながら、彼の色を考える。
あちらの世界のような明るい電灯の無い、薄暗い部屋の中、蝋燭の灯りだけでは、やはり色は見辛いから、岩絵具の入った小瓶を取り出し、中身の色を書いたシールを見て想像を膨らませるしかない。
(あの人の色は、何色だろうか)
小瓶に入った絵具をじっと見ながら彼の姿を思い浮かべる。
レオンハルトの瞳の色、少しハスキーな声のトーン、微かに上がる口角。笑った顔。姿勢の良い、座った時の肩から背中にかけての線。
こちらを見る、その視線。
「…………っ」
結局、切り替えきれていやしない。
「本当……なんなの?」
美月は髪を留めていたリボンを解き、下を向いてわしわしと髪を乱した。長い黒髪が乱れ、するりと肩を滑る。乱れた髪はまるで、今の自分の心の中みたいだった。
「…………寝よう」
早く休むようにと言ったレオンハルトの声が、頭の中で再生される。……相当、今日は彼に毒されているようだ。
これまでは、ただの年下の男の子だったのに……彼は男の人だと、強く意識させられる日だった。
全く纏まらない頭の中も、ざわめく感情も――今日は、どうにも思うことも感じることも多過ぎて、整理が上手くいかない。
最初のコメントを投稿しよう!