1.落ちました。

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「御苦労さん。気を付けて帰りなねー」  入り口の守衛さんに見送られ、軽く頭を下げて大学の外へ出る。  冬の空気は肌に刺さるように冷たい。温かいコートのポケットに手を突っ込みたいところだが、今夜夜通し制作するつもりの美月は、持ち帰る大量の画材の入った大きなトートバックニつと作品パネルを抱えている。パネルが大きいから滑らないように手に手袋は無く、素手のままである。 「さむ、寒っ!」  耳が千切れそうな寒さの中、白い息を吐きながら重い荷物を時折抱え直し、暗い夜道を一人歩き出した。  大学から美月の住むアパートまでは徒歩で三十分程かかる。美月の実家は大学のある地域からは遠く、帰省には新幹線か飛行機を使わねばならない。     
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