8.下塗り始めました。

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 青い、光の加減で少しきらきらして見える、奥行きのある不思議な色合いの背景に浮かびあがる女性。肌をさらけ出し、白い背中から腰にかけての曲線は艶めかしいのに、こちらをじっと見つめる、どこか凛とした……この国ではあまり見ない、黒髪に茶色味がかった黒っぽい瞳の女性の姿。  それは、浮世離れした美しい絵だった。  あの絵を見た時から、レオンハルトの脳裏には彼女の黒髪と瞳の色が離れない。白く美しい肢体も。  時折、何かの拍子にやって来る客人は、いずれも何かに喚ばれてこの世界にやって来るらしい。  それは、例えばこの世界の誰かがふとした瞬間「窓を磨いて欲しいな」と願えば、その同じ時、あちらの世界で「さあ、窓を磨こうかな」と考えていた者が、偶然時の歪みに紛れてやって来るようなもの、だそうだ。  望んだ者と、それを実行しようとしていた者の双方の意思が寸分違わぬ歯車のようにカチリと噛み合った時――あちらの世界とこちらの世界が繋がり、『客人(マレビト)』はやって来るのだ。  ――だとすれば、彼女は()()呼ばれて来たのだろうか。 「……美月」  あの日、彼女に触れた時以来、レオンハルトは彼女に会っていない。部屋に引き篭もり、中で下絵と言うものに取り掛かっているからだと、リーリアからは聞いているが、気のせいか避けられているような気も、しなくは無かった。  自分が彼女の身体に触れてみたいと、つい、欲をかいてしまったせいだろうか?     
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