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幼い頃から絵が好きだった美月は、どうしてもこの大学に入りたくて、反対する両親を説得した。その所為もあり、出来る限り両親にはお金のことで負担は掛けたく無い。だけども、日本画の絵具は思いのほか高価だ。絵具や画材の為にアルバイトはしているが、学生である美月が一人暮らしをするには、家賃がそこまで高くないアパートを探す必要があった。その結果、少し離れた立地にあるが七畳ワンルームの、現在のアパートに住むことになったのだった。普段は自転車か大学の定期運行バスに乗るのだが、今日はパネルを持ち帰る為に自転車には乗れないし、大学のバスは終わってしまった。
この街灯の少ない暗い道を、とぼとぼと歩いて帰るしか無かったのだ。
「……重い」
息を吐きながら、荷物を置く。歩く度に手が悴んで指の感覚が鈍くなる。このキンとした冬の空気は好きだが、今日の荷物の量では少しきつい。
今日は、いつもならほんのりと行く先を灯してくれる月も無く、美月が踏みしめて進む帰路は真っ暗な道が続く。普段ならぽつぽつ通る車も、帰宅ラッシュの時間をとうに過ぎた今、この大きな川沿いの道路にはあまり通らない。
とても、とても、静かな夜だ。
「はー」
悴んだ手を擦り合わせ、息を吹きかける。白い息が僅かながら冷たくなった指先を撫でるが、外気の温度が冷たくて、留まることもなく熱は消えて行く。
(早く帰り着きたい)
狭いワンルームでも、初めて手に入れた一人暮らしの自分の城だ。
お風呂入って、あったまって、残り物サラダのサンドイッチを食べたら、この自画像の細部の描き込みをする。暖かい部屋で、イヤホンを付けたスマホで自分の好きな洋楽を聴きながら。
(……よし! 早く帰ろ!)
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