9.描けなくなりました(色んな意味で)

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 微かに震える拳を握りしめ、レオンハルトは美月に笑いかけた。 「……え」  酷く傷付いた笑顔だった。  笑っているようで、その瞳はどこか哀しげで。見ているだけで胸が痛くなるような、悲しい顔で笑うレオンハルトを見て、初めて自分の言葉の不用意さと、考え足らずな自分を呪った。  胸の奥の温度が、一気に下がる。  今まで過ごした日々が頭を過ぎり、美月は言葉を失った。 「君の気持ちは……よくわかりました」 「あ」 「……もう返事は充分、ですよ……しつこく誘って……悪かった」  美月に笑いかけるレオンハルトの瞳とは、視線が絡むことはなかった。そのまま、彼は踵を返し、部屋の入り口へと向かう。 (どうしよう。何を言えばいいの……)  美月は彼を引き止めたくて、口を開こうとするが、上手く言葉が見つからない。 (行ってしまう……)  どくどく、と自分の心臓が嫌な音を立てている。焦りにも似た気持ちを抱えても、今更自分の口から滑り落ちた言葉を取り戻せる訳もない。  焦る気持ちに思考が余計に纏まらない。 「……深夜に、失礼しました」  パタン、と部屋の扉が閉まり、レオンハルトの背中が夜の闇の中に消えて行く。  美月は、その後ろ姿を呆然として見つめた。  傷つけた。  彼を酷く傷つけてしまった。     
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