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微かに震える拳を握りしめ、レオンハルトは美月に笑いかけた。
「……え」
酷く傷付いた笑顔だった。
笑っているようで、その瞳はどこか哀しげで。見ているだけで胸が痛くなるような、悲しい顔で笑うレオンハルトを見て、初めて自分の言葉の不用意さと、考え足らずな自分を呪った。
胸の奥の温度が、一気に下がる。
今まで過ごした日々が頭を過ぎり、美月は言葉を失った。
「君の気持ちは……よくわかりました」
「あ」
「……もう返事は充分、ですよ……しつこく誘って……悪かった」
美月に笑いかけるレオンハルトの瞳とは、視線が絡むことはなかった。そのまま、彼は踵を返し、部屋の入り口へと向かう。
(どうしよう。何を言えばいいの……)
美月は彼を引き止めたくて、口を開こうとするが、上手く言葉が見つからない。
(行ってしまう……)
どくどく、と自分の心臓が嫌な音を立てている。焦りにも似た気持ちを抱えても、今更自分の口から滑り落ちた言葉を取り戻せる訳もない。
焦る気持ちに思考が余計に纏まらない。
「……深夜に、失礼しました」
パタン、と部屋の扉が閉まり、レオンハルトの背中が夜の闇の中に消えて行く。
美月は、その後ろ姿を呆然として見つめた。
傷つけた。
彼を酷く傷つけてしまった。
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