1487人が本棚に入れています
本棚に追加
見えない言葉の刃を突き立てた。
彼の心を傷つけたのは自分の発した考え無しの、不用意な言葉。
ぽたり、と涙が溢れた。
(私の絵を、私のことを、好意的に見てくれていた人)
ずっと絵を描くことが好きで、恋愛なんてめんどくさいだけだと思っていた。地味で見た目もそんなに女らしく無い自分に、あれだけ分かりやすく、ストレートに寄せられる男性からの好意を、美月は受け取ったことが無い。
片想いの、美月が遠くから見つめるだけの一方的な恋ならしたことくらいはある。しかし、人から愛される恋をしたことが無かった。
だから、彼がこの部屋を立ち去る時、自分がどうしたら良いのか分からなかった。
「……どうしよ……」
拭いても拭いても、ただ溢れる涙を拭いながら、描きかけのレオンハルトの肖像画を見る。
絵の中のレオンハルトは、いつも美月に穏やかに笑いかけた頃の優しい瞳で美月を見ている。
この世界に来てから、自分は知らない感情にずっと悩まされている。
(なんだか、すごく……胸が痛い……)
もうすぐ夜明けだ。
描きかけのレオンハルトの肖像画の前で、美月は泣き続けた。
最初のコメントを投稿しよう!