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10.君が喚ぶから。
「名塚さん、今から帰り?」
美月は、大学院に進んでいた。
日本画の専門知識を更に深める為だ。
実習棟のある建物は、大学の最奥にある。赤い煉瓦造りのレトロな建物は、美月の好きな中世の街並みを思い出させ、時折胸が軋む。
日本画教室のある、その実習棟を出た所で声をかけて来た男性は、同じ日本画専攻の同級生の五十嵐浩介と言う。
この所、美月によく声を掛けて来る男だ。
「名塚さん、今回のテーマのモチーフ決まった?」
「うーん……まぁ」
腰まで伸びた長い髪をゆるく巻いて綺麗に纏め上げ、薄っすらと控え目な化粧を覚え、ぴったりとしたスキニーに白いストレッチシャツ。ロングカーディガンを着たラフな姿の美月は、すらりとした容姿も相まって雑誌のモデルのようだと言われる。
元々スレンダーで華奢な体型ではあったが、女らしく無いと卑下していた彼女の見た目は、三年半余りの時を経て大人の女性へと変わっていた。
「名塚さんさ、今度一緒に長谷川教授の個展見に行かない? 来週から始まるってやつ。名古屋であるでしょ?」
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