10.君が喚ぶから。

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 何故なら、美月の中にはまだ()の面影が残っているからだ。  寂しそうな顔をした五十嵐を見ても、まず最初に思い出してしまうのは、傷付いたような顔をした、天使のように綺麗な顔立ちをした少年の姿を重ねてしまう。当時十七と言う、年齢の割りに大人びた言動とは裏腹に、まだあどけなさが残る容姿の彼のことを。  青い瞳に見つめられて、胸が騒いだ冬を思い出す。  レオンハルトの後ろ姿を見送った後、自らの言動で彼を傷つけて深く後悔したあの日――あれから、泣いて泣いて泣き疲れて眠ってしまった。  翌朝、美月が目覚めると、何故か大学の日本画科の教室の、畳の上に倒れていた。知らぬ間に自分のいた世界に戻っていたのだ。  守衛のおじさんにも挨拶をして、大学の門を確かに出た記憶はある。でも、その後大学へ戻った覚えは無い。それなのに、翌日の大学の日本画教室に居た。  日付は翌日に変わっているだけで、あちらの世界に召喚されて過ごしたはずの数ヶ月の時間は、まるであれが全て夢だったみたいに、ごっそりと抜け落ち、初めから無かったことになっていた。  ――もう一つ、おかしなことがある。     
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