10.君が喚ぶから。

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 美月は暗くなった大学を出て、帰路につく。  部屋に画材は揃っているから、今日は持ち帰るものも僅かだ。自転車で十分程で、自宅であるアパートに着いた。  アパートの裏の駐車場脇の庇だけある自転車置き場に、乗って帰った自転車を停め、前籠から荷物を取り出して抱え直し、カンカンと音を立てながら金属製の階段を三階まで登って行く。三階の突き当たり、奥から二番目の部屋が美月の借りている部屋だ。  バッグから鍵を取り出し、ドアを開けて中へ入ると、靴を脱いで入り口の電気を点ける。  入って左側にトイレ兼バスルーム、右側に小さなキッチン。そのまま真っ直ぐ歩くと、七畳の美月の城だ。  白で統一されたワンルームの部屋の中は、主人が不在だったせいで冷んやりとしている。  エアコンをつけようと、リモコンに手を伸ばしてから、ふと壁側に何枚も置いてある新聞紙に包まれた自分の作品に目が留まる。 「…………」  その一番奥にあるのは、あの肖像画だ。  美月はその作品を――長い間、どうしても見ることが出来なかった。  持ち帰った作品は、あの後完成させていた。     
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